梁塵秘抄『法華経序品』(ほけきょうじょぼん)五首
御義口伝【阿闍世王の事】
樹冠人:御義口伝の「七箇の大事」の第三には、釈尊に敵対した提婆達多と共謀した阿闍世王が登場します。阿闍世王は釈尊晩年に罪を悔いて帰依した弟子ですね。釈尊の最初の弟子である阿若憍陳如と最晩年の阿闍世王が登場するのには、何か意味があるのでしょうか?
妙櫻華:御義口伝の第三阿闍世王の事では、「文句の一に云く阿闍世王とは未生怨と名く、又云く大経に云く阿闍世とは未生怨と名く又云く大経に云く阿闍を不生と名く世とは怨と名く。」と、天台大師の法華文句と涅槃経の文を引かれています。
樹冠人:大般涅槃経(涅槃経)には、「父の頻婆沙羅王に世継ぎの子なく、山中に住む仙人が死後太子となって生まれると占師がいったことを待ちきれずに仙人を殺した。やがて生まれた男子は、占師が、王の怨となるといったことから、未生怨(阿闍世)と名づけられた。阿闍世は長じて悪逆の提婆達多と共謀して、父を殺した。」とありますね。
妙櫻華:提婆達多と共謀した阿闍世王は、父を餓死させ母も殺そうとした古代インドのマガダ国の国王です。しかし、後には罪を悔い、激しい頭痛を感ずるようになった。そして医者の勧めにより、釈尊に相談して頭痛がおさまり、その結果として仏教に帰依し教団を支援することになったと伝承されています。釈尊が入滅後、王舎城に舎利塔を建立して供養し、第一回の仏典結集には大檀越として外護したと伝承されています。
樹冠人:御義口伝には、「日本国の一切衆生は阿闍世王なり既に諸仏の父を殺し法華経の母を害するなり」とあり、無量義経の「諸仏の国王と是の経の夫人と和合して共に是の菩薩の子を生む」を引用され、その後に、「謗法の人・今は母の胎内に処しながら法華の怨敵たり豈未生怨に非ずや、其の上日本国当世は三類の強敵なり世者名怨の四字に心を留めて之を案ず可し。」とありますね。
妙櫻華:釈尊の最初と最後の弟子が登場しているのは、釈尊の一生の間の門下をすべて含めている象徴と見ることができます。ゆえに、日蓮大聖人は列衆の意義を生命論から解明されご指南されたのです。
樹冠人:その他の大衆でも同様ですが、特に他の経典と大きな違いがある特徴は「女人成仏」ですね。
妙櫻華:法華経においては序品で既に、男性と並んで女性の代表が登場します。「女人成仏」の象徴として、提婆達多品の「竜女の成仏」は有名ですが、勧持品に登場する「比丘尼」たちも序品で既に紹介されています。男性にも女性にも同じように呼びかけて、差別がないことは当然と思われていたのです。
樹冠人:そして、声聞衆の後に、菩薩衆・天界衆・八竜王・八部衆を登場させ紹介していますね。
妙櫻華:八部衆は想像上の衆生ですが、インドで信仰されていた神々までが「法華経の会座」に列座しています。また、人間の生命そして宇宙の生命の「働き」として捉えて表現しているのも特徴です。そして、敵対関係にある者たちまでも同席していることから、法華経は「平和と平等」を教えている経典であることも特徴的です。
梁塵秘抄が謳う法華経の世界
著作者:ウィンベル教育研究所 妙櫻華・樹冠人
平成二十五年(2013年)四月作成