『西洋事情』二編(せいようじじょう にへん)

    


タイトル:西洋事情 二編(せいようじじょう にへん)

著者:福澤諭吉

出版書写事項:明治六年(1876年)三月再刻発行

形態:四巻全四冊 和装中本(A5版変形)

発行所:慶應義塾出版局

目録番号:win-0050002



西洋事情 二編』の解説

 福澤諭吉(天保五年・1835~明治三十四年・1901)については、「西洋事情 初編」で説明したので省略する。

 初編三冊を著した後、当初は二編三冊に各国(ロシア・フランス・ポルトガル・ゼルマン・プロシャ)の史記・政治・海陸軍・銭貨出納を掲載する予定であったが、理解しにくいことに気づき、西洋の社会諸事情を外編三冊に著し、二編に諸外国の事情を著すことにした。

 しかし、二編には巻之一に「人間ノ通義」「収税論」を配置し、巻之二に魯西亜(ロシア)、巻之三と巻之四の二冊に佛蘭西(フランス)と予定巻数を遥かに超えた。そこで、三編を予定していたが未刊となり、結果的に「西洋事情」は初編三冊・外編三冊・二編四冊の計十冊で構成されることとなった。福澤は二編の「例言」と「目録」において諸般の事情を説明している。

 二編の「目録」によれば以下の内容となっている。

巻之一
 人間ノ通義
  英国人民ノ自由 一身ヲ安穏ニ保スルノ通義 一身ヲ自由ニスルノ通義
  私有ヲ保ツノ通義 此通義ヲ達スル所以ノ安心ヲ論ス

 収税論
  一国ノ公費ヲ給スルノ法ヲ論ス 収税ノ主意ヲ論ス
  一国ノ財ヲ費ス可キ公務ヲ論ス

   第一政府ヲ維持スルガ為メニ財ヲ費ス事
   第二人民ヲ教育スルガ為メニ財ヲ費ス事
   第三宗旨ヲ護持スルガ為メニ財ヲ費ス事
   第四国内ノ営繕ニ財ヲ費ス事
   第五貧人救助ノ為メ財ヲ費ス事
   第六軍国ノ備ニ財ヲ費ス事

巻之二
 魯西亜 史記 政治 海陸軍 銭貨出納

巻之三
 佛蘭西 史記

巻之四
 佛蘭西 史記 政治 海陸軍 銭貨出納

 とにかく、福澤諭吉の著作には「偽本」が付きまとう。慶応義塾大学の「デジタルで読む福澤諭吉」の解説を読めば、その実態がどのようなものであったかが理解できると思うので、抜粋しておく。

 『二編四冊の体裁も初編外編と全く同じで、題箋は「西洋事情二編 一(二、三、四)」となっており、見返しは外編と同様、黄色の和紙に「福沢諭吉纂輯/ 西洋事情二編/明治三年庚午初冬 尚古堂発兌」とあり、右下隅に「慶応義塾蔵版之印」という長方形の朱印が押してある。巻之一が例言六丁、目録二丁、本文五十六丁、巻之二が本文五十二丁、巻之三が本文五十丁、巻之四が本文三十七丁、蔵版目録二丁である。巻之四本文の終りに「明治三庚午年十月/官許/禁偽版 慶応義塾蔵版/岡田屋嘉七売弘」と記し、「官許」の二字を大書している。外編巻末の「不許偽版」の大書と共に、福沢がいかに偽版に苦しめられたかを物語るものである。事実、巻之四巻末の慶応義塾蔵版目録の書名の下に、「上方に偽版三四様ありて方今も偽本を売買せり」「これも偽版二三様あり」「例の如く偽本版山」「この書も偽版の噂あり他の例に従へば実説ならん」などと記している。』(「デジタルで読む福澤諭吉」の解説より)

 また、明治六年三月に「西洋事情」全十巻が一揃いに新版となったようである。すなわち、初編の三版、外編の三版、二編の再版である。今回紹介した「西洋事情 二編」はこの時のものと思われる。同じく慶応義塾大学の「デジタルで読む福澤諭吉」の解説を抜粋しておく。

 『この新版の特徴の第一は、従来の刊本と表紙の異なる点である。従来は網目模様の地紋の濃藍色表紙であったが、新版の表紙には、白と黒との斜め縞に「慶応義塾蔵版」の六字を散らし書きに白字で出した図柄の全面に銀粉掃きつけの用紙を使っている。題箋は「西洋事情 初編一再刻」というように、この新版で初めて「初編」の文字を表わしている。しかも実は第三版であるのに題箋だけは「再版」と記してあるのも注意を要する。外編と二編との題箋には「再刻」の文字はない。
 見返しは再版本と同様に黄色の和紙を用い、文字の配列も同様であるが、「尚古堂発兌」の代りに「慶応義塾出版局」と改められ、その文字に冠せて「慶応義塾蔵版之印」の長方形朱印が押してある。しかも刊年は、初編は「明治三年庚午再刻」、外編は「明治五年壬申再刻」、二編は「明治三年庚午初冬」と、初編、外編は再刻の年を、三編は初版の年を掲げ、初編と外編とには左下隅に「明治六年三月再々刻」、二編には「明治六年三月再刻」と記している。各編ともに奥附も蔵版日録もない。これらがこの新版の特徴で、思うに十冊全揃いとして発売せられたものであろう。』(「デジタルで読む福澤諭吉」の解説より)

 このように、福澤諭吉の著作はベストセラーになったのは良いが、版権の確立していない明治期の偽本に悩まされた諭吉の心情を慮れば、やるせない思いであったろうと思われる。

 なお、「デジタルで読む福澤諭吉」の解説によれば、代表的偽本は「増補和解西洋事情(四冊)」「西洋事情次篇(二冊)」「西洋各国事情(六冊)」があり、しかもそれぞれに異版があると明記されている。

【参考】 「デジタルで読む福澤諭吉



   所蔵者:ウィンベル教育研究所 池田弥三郎(樹冠人)
   平成二十三年(2011年)二月作成