『訓蒙窮理圖解』(きんもうきゅうりずかい)

    


タイトル:訓蒙窮理圖解(きんもうきゅうりずかい)

著者:福澤諭吉

出版書写事項:明治六年(1873年)再刻発行

形態:三巻全三冊 和装中本(A5版変形)

発行所:慶應義塾出版局

目録番号:win-0050003



訓蒙窮理圖解』の解説

 福澤諭吉(天保五年・1835~明治三十四年・1901)については、「西洋事情 初編」で説明したので省略する。

 窮理(きゅうり)とは、いわゆる「物理学」のことである。今回紹介する「訓蒙窮理圖解」は初学者に図解を駆使して物理学を紹介している入門書である。また、日本最初の科学入門書でもある。そして、西洋の物理を日本の風俗に合わせて解説しているため理解しやすい書籍でもあり、明治期の小学校の教科書ともなった。

 福澤諭吉の序文によると、西洋人の耳目鼻口について書き出し、日常生活の理の話から始めている。そして、孟子の例を引きながら「物の理を窮めること」の大切さを説いた書籍であることを強調している。また、凡例では、「この書籍は翻訳の体裁を改めて通俗の語を用い、窮理の例を挙げて図を示して多くの日本の事柄を引用して、唯(稚)児女子が面白く理解できることを願う」と述べている。図解の詳細を見ると当時の風俗を知ることが出来て大変参考となる書籍でもある。

 そして、「英吉利と亜米利加の原書を引用した」ことを示し、以下の引書を掲げている。

 英版「チャンブル」窮理書
 亜版「クワッンボス」窮理書
 英版「チャンブル」博物書
 亜版「スウヰフト」窮理初歩
 亜版「コル子ル」地理書
 亜版「ミッチェル」地理書
 英版「ボン」地理書

 本文では以下の内容が読み取れる。

巻の一

 第一章 温気の事 「万物は熱を加えれば膨張し、冷えれば縮む有生無生温気の徳を蒙ざる者なし」と、「日輪」「物の調合」「摩擦熱・火打石」「ゑれきとる」の四つの源について解説し、最後に「温度計」の説明で締め括っている。

 第二章 空気の事 「空気は世界を擁して海の如く萬物の内外気の満ざる処なし」と、「空気」「ポンプ」「晴雨器」について解説し、「人たるものは幼きときより心を静かにして何事にも疑いを起こし博く物を知り遠く理を窮めて知識を開かんことを勉べし徳誼を修め知恵を研くは人間の職分なり」と締め括っている。

巻の二

 第三章 水の事 「水は方円の器に従て一様平面天然の湧泉人工の水機皆此理」と、「サイフォン」「水道」「井戸」について解説し、続いて、山の湧き水が涸れる理由を述べている。

 第四章 風の事 「空気日に照らさるれば熱して昇るを冷気これを交代して風の原となる」と、「廻燈籠」を例に挙げて「風」「季節風」の起こる原理を解説し、「舟子(ふなのり)の言葉」を例示して「海風」「山風」の原理も解説している。

 第五章 雲雨の事 「水気の騰降は熱の増減に由り一騰一降以て雲雨の源となる」と、洗濯物が乾く原理を解説しながら「蒸発気」を説明している。「富士山」を示して水蒸気の循環を解説して、「打ち水」の原理を詳細している。

 第六章 雹雪露霜氷の事 「露凝て霜となり雨化して雪となる雨雪露霜其状異にして其実は同じ」と、雹雪露霜氷の発生の原理を詳細し、氷の結晶が六角形であることを例図している。最後に、瀬戸物を押し割ることを例示して、水が氷になると膨張して容積が増えることを解説している。

巻の三

 第七章 引力の事 「引力を感る所至細なり又至大なり近は地上に行遠は星辰に及ぶ」と、「引力」の定義を述べて地球の引力を解説し、物が軽くなる原理を具体的計算で詳細している。そして、「遠心力」「求心力」を説明して「恒星」「遊星」の説明に及んでいる。最後に、門弟の小幡篤次郎の「天変地異」を参照するよう締め括っている。

 第八章 昼夜の事 「日輪常に静にして光明の変にて世界自ら轉びて昼夜の分あり」と、「ガリレオ」の地動説を紹介しながら地球が「毬」や「橙実」のように球形で、「地軸」の傾きも含めて「昼夜」の仕組みを解説している。「自転」を解説しながら「時差」の解説も詳細している。

 第九章 四季の事 「日輪一処に止りて温気の本体となり世界これを廻りて四時の変化を起す」と、地球の「公転」を説明して「四季」の起こる原因を解説している。

 第十章 日蝕月蝕の事 「月は世界を廻りて盈虚の変を生じ三体上下に重りて日月の蝕を成す」と、地球の「衛星」である「月」について解説して、「月の満ち欠け」を解説しながら「日蝕」「月蝕」を理解させている。まさに、現代の教科書にも踏襲されている解説図は一見の価値があると思う。

【参考】 「デジタルで読む福澤諭吉



   所蔵者:ウィンベル教育研究所 池田弥三郎(樹冠人)
   平成二十三年(2011年)二月作成