『西郷隆盛』(さいごうたかもり)

    


タイトル:西郷隆盛(さいごうたかもり)

著者:富田常雄

解説:大久保利謙

出版書写事項:平成元年(1989年)十二月 改訂二版

形態:一巻全一冊(単行本)

発行者:今村廣

発行所:株式会社偕成社

目録番号:win-0040008



西郷隆盛』の解説

 西郷隆盛(文政十年・1827~明治十年・1877)については、「西郷南洲先生遺訓」で説明したので省略するが、著者の富田常雄(明治三十七年・1904~昭和四十二年・1967)は、柔術家富田常次郎の子として東京府に生を受けた。明治大学に在学中から著述活動を始め、戦前の「姿三四郎」は有名で度々映画放映された。戦後の「刺青」「面」で直木賞を受賞し、「弁慶」はNHKの連続ドラマ「武蔵坊弁慶」で再び脚光を浴び、歴史人物作家として一時代を画した。今回紹介する「西郷隆盛」は「姿三四郎」「弁慶」につぐ代表作である。

 この書籍は、「偉人の門出」「島の英雄」「風雲うず巻く」「維新の隆盛」「城山の月」の五章で構成され、最後に大久保利謙の「解説」と「年表」を添付している。全ての漢字にルビを付けてあるのも特徴である。

 解説を担当した大久保利謙(明治三十三年・1900~平成七年・1995)は、大久保利通の孫である。短期間であるが貴族院議員も務め、戦後は歴史学者として名古屋大学・立教大学の教授に就任している。なお、国立国会図書館の「憲政資料室」の開設に当たっては、明治の元勲たちの子孫から資料を預かり提供している。

 この書籍で特に印象に残った箇所は、「島の英雄」の章で、土持政照や西郷が睡眠先生と呼んだ川口良次郎との生活風景が何とも言えぬタッチで表現されていることであった。また、私こと樹冠人にとって、やはり、西郷隆盛の「征韓論」についての疑念はなかなか払拭できない事柄である。

 著者の富田常雄も「維新の隆盛」の章で、「征韓論」のタイトルを付けて「大使派遣(修交問題)」と「内治問題」の対比で説明している。「感情のもつれが、いろいろな利害問題とからみあって、いわゆる『征韓論』という問題をつくりあげてしまった。このように政治というものは、りくつどおりにうごかないむずかしいものであることを、つくづくとかんがえさせられる。」と記述した。

 特筆すべきは、前述の大久保利通の孫である利謙は、解説の「至誠に殉ずる人」の項目で、大久保利通にあてた西郷の書簡を紹介し、「私には元帥にて近衛都督拝命、当分破裂弾ちゅうに昼寝いたしおり候」と書き送っています。と記述したことである。また、「これが西郷の心でした。しかし西郷としては、この昼寝があまり長すぎたのです。そののち、征韓論で大久保としょうとつしたのもそのためで、板垣退助や江藤新平のような政治的策謀はすこしもなかったのです。」とも記述している。



   所蔵者:ウィンベル教育研究所 池田弥三郎(樹冠人)
   平成二十三年(2011年)二月作成