『松陰先生遺著』(しょういんせんせいいちょ)

    


タイトル:松陰先生遺著(しょういんせんせいいちょ)

編者:吉田庫三(よしだくらぞう)

出版書写事項:明治四十一年(1830年)十月十二日 初版発行

形態:一巻全一冊 (変形B5版)

発行兼印刷者:渡邊為蔵

発行所:民友社

目録番号:win-0020006



松陰先生遺著』の解説

 吉田松陰(文政十三年・1830~安政六年・1859)先生は、短命であったが膨大な著作を遺している。松下村塾で編纂した著作や書簡などを含めると常人のなす執筆行為を遥かに超えている。ましてや、松陰先生が幽囚の身で大半を過ごしていることを考え合わせると、それは、崇高な情熱なくしては果たすことのできなかった執筆行為であったと思う。

 今回紹介する書籍は、松陰先生の妹・千代の息子、つまり甥にあたる吉田庫三氏が、松陰先生の後嗣としての責務を果たすべく纏め上げたものである。そして、松陰先生研究には必要不可欠な重要遺著を編纂した貴重な書籍でもある。なお、庫三氏は長州藩に生まれ、七歳で松下村塾に入塾し、松陰先生の師匠である玉木文之進に教えを受ける。そして、吉田家を十一歳で継ぎ、萩の松陰神社例祭の祭主でもあった。

 この書籍の総目次を掲載しておく。

 巻首⇒写真(松陰先生自賛肖像)、石版十三種、例言、
    書先師松陰先生手蹟留魂録後、松陰先生年譜草稿、松陰先生遺著目録

 遺著⇒第一 武教全書講章、第二 未焚稿抄 未忍焚稿抄 西遊日記附録抄
    第三 上書三巻、第四 幽囚録、第五 回顧録、第六 野山文稿
    第七 幽室文稿(丙辰丁巳)、第八 松陰詩集 賞月雅草抄 獄中俳諧抄
    第十 九数乗除図 第十一 照顔録坐獄日録
    第十二 東行前日録、第十三 書牘雑輯、第十四 留魂録

 附録⇒允可三重極秘之傳傳統、免許目録傳授、兵学入門起請文、
    杉恬齋先生傳、玉木玉韞先生傳、松陰先生東行送別詩歌集、
    松陰先生埋葬並改葬及神社の創建

 例言で「先生殉難の五十年なるにより舊藩主毛利公其の祭典を擧けらるるに當り遺著を印行して弘く諸學校に頒布せられんとす」とあり、山口県の学校図書館に収蔵されたと思われる。また、この書籍の中には詩歌・俳諧が豊富に正確に掲載されているので、松陰先生の其の時折の心の在り様を研究するには最良の書籍である。

 また、吉田家のみが取り扱うことができる松陰先生の書簡が豊富に掲載されており、松陰先生を取り巻く人間群像を研究するにも最良の書籍である。つまり、この書籍は、松陰先生の遺著を正確に精読するためには必要不可欠な資料である。

 吉田庫三氏によって後世の後学諸氏に伝えてもらえたことに敬意を捧げると共に、大変感謝するものである。



   所蔵者:ウィンベル教育研究所 池田弥三郎(樹冠人)
   平成二十二年(2010年)十月作成