『風霜』(ふうそう)

    


タイトル:風霜(ふうそう)

著者:尾崎士郎(おざきしろう)

出版書写事項:(上部写真)昭和二十九年(1954年)三月二十五日 初版発行
       (下部写真)昭和五十二年(1977年)一月二十五日

形態:一巻全一冊 B6版

編者:東行先生五十年祭記念會

発行者:(上部写真)佐藤義夫(下部写真)櫻井文雄

発行所:(上部写真)株式会社新潮社(下部写真)廣済堂出版

目録番号:win-0020009



風霜』の解説

 「風霜」とは、きびしい世の中の苦難や風雪の意味である。尾崎士郎(明治三十一年・1898~昭和三十九年・1964)の小説「風霜」は、激動の明治・大正・昭和を生きた著者の人生そのものでもあった。今回紹介する「風霜」(上部写真)は、後に「高杉晋作」(下部写真)と改題され出版された原題のものである。

 尾崎士郎の作品の特徴として、「まえがき」とか「あとがき」は一切なく、いきなり「序章」などの見出しから始まる。いかにも「全体を読めば尾崎士郎の心情は解る」との気概が伝わってくるようでもあり、まさに、この「風霜」で展開されている維新の群像たちに託した著者の心情が迫ってくる。

 参考までに、「風霜」と「高杉晋作」の見出しを掲載しておく。

【風霜】
 「序章」「朝の影」「雨の一夜」「雲の行方」「悲しき夢」「小塚ガ原」「桜田門外」
 「春の宵」「楊州の夢」「一花ひらく」「成破の約」「旅日記」「妖霧」「一波万波」
 「春短し」「剣の舞」「消ゆる幻」「大暴風」「青雲の客」「新芽」「黒い影」「海色」
 「走馬燈」「動中静」「雲往来」「月魄」「奇兵隊」「狂瀾」「暁闇」

【高杉晋作】
 (黎明篇)
 「終の旅路」「柳燈」「帰雁」「秋蕭条」「嵐」「光る影」「雨の宿」「待機の日」
 (乱雲篇)
 「弧燈」「嵐の前夜」「一夢の間」「悲願に立つ日」「蹶起」「男の腹」「血盟」
 「悲歌」「千鳥」

 私こと樹冠人がこの小説の存在を知ったのも池田大作先生の「若き日の読書」であった。この小説を読んで高杉晋作を研究しようと「東行先生遺文」を購入した思い出が鮮明に浮かんでくる。また、読書に関する戸田城聖先生の指導から語り始められている訳を、この「東行先生遺文」を読んで初めて理解できたのも良き思い出である。

 「若き日の読書」の「思想・人物・時代を読む 尾崎士郎『風霜』」で、戸田城聖先生の作家論が展開されている。戸田城聖先生曰く、「尾崎士郎という作家は、日本の文学者のなかでは、ひとつの思想を、ちゃんと持っているという点で、尊敬できる。なかでも『人生劇場』には、私は感銘を受けました。総じて日本文学には思想がなく、視野も狭い。それに比べると、翻訳物ではあっても、およそ世界文学には思想があり、背景も雄大で、私は好きだ」と。

 そして、「若き日の読書」の章末には、奇兵隊を指揮した人物が、女物の被衣(かつぎ)をかぶって三味線をひく高杉晋作であることを前書きにして、「面白いじゃないか。こんなふうに悠々と指揮した晋作は、よほどの大人物であった。われわれの人生も、すべて晋作のように、悠々と生きたいものだ。もし歴史上の人物に会えるものなら、ぜひ高杉晋作には会ってみたいな」と、戸田城聖先生の晋作感が掲載されている。



   所蔵者:ウィンベル教育研究所 池田弥三郎(樹冠人)
   平成二十二年(2010年)十月作成